私の仕事のひとつにWEBライターがありまして、日本人向けに英単語や英文法の解説をしています。
書くトピックは会社からドサっとリストアップされている中から「これ書くわー」と連絡し希望が通れば執筆依頼が来るようになっています。
つい最近「旅行」に関する英単語の解説をしたのですが「長旅」を意味するvoyageの例文検索をしているときに個人的にはちゃめちゃにおもろいことに気がついたんです。
The Titanic sank on her maiden voyage.
(タイタニック号は処女航海で沈没した)
この英文の面白さ、わかっていただけますか?
注目して欲しいのは「her」です。
みなさん学校で呪文のように唱えたでしょう。
アイマイミーマイン、ユーユアユーユアーズ
「her」は「she」の所有格で「彼女の」という意味です。
この英文のherってなんのことだと思いますか?
彼女の処女航海…?
そう!タイタニック号、船のことなんです!
私はここでピンときた。voyageってフランス語のボヤージュが語源なんです。
フランス語の名詞には女性名詞、男性名詞というように性別がある。
例えば机は男性名詞なのにテーブルは女性名詞。
ピンときた私
「ぜっっったい船って女性名詞やろ!!!」
調べてみたら現在のフランス語では男性名詞ですが、昔のフランス語でやはり船は女性名詞でした。
おもしろ〜!途中で性転換してるし〜!
でも古フランス語では女性名詞なのかもしれないけど
名詞に性別がない英語では船は物でしかないから
The Titanic sank on its maiden voyage.
というふうに「its」を使うはずなんですよね。
ていうかこっちが普通に正しいだろ。
じゃあなんで英語にもフランス語みたいなルールが適応されてるんだ?
と思ったら歴史に秘密がありました。
イングランドは16世紀ごろフランスからやって来たノルマン人に侵略されたって社会科で習いましたよね。いわゆるノルマンコンクエストってやつです。
あたかも「私は覚えてましたよ、一般常識です。」
みたいな口ぶりですが
1ミクロンも覚えてませんでした、すみません。
その際に宮廷の公用語が英語からフランス語になったんですよね。侵略して来たやつらがフランス語しか喋れないから。その結果、現在使われている英単語の実に6割以上がフランス語由来なんだそう。
起業家を意味する英単語のentrepreneurとか
めちゃくちゃフランス語っぽいですよね。
カタカナで発音書きたいけど無理だもんな、
日本語にない音すぎる。
そんな背景があって今もイギリスでは船を「she」や「her」を使って
女性として扱うことが稀にあるようです。
これはあくまでも例外で、英語という言語一般には名詞に性別の概念はありません。
広く使われる言語になるにつれて消滅したらしい。良かった、名詞ごとに性別なんて覚えてらんねぇ。
こうして見てみると言語って本当に歴史や文化と深く関係していて、
生き物のように形を変えていることがわかります。
現代ではジェンダーフリー、ジェンダーニュートラルの考えからフランス語やドイツ語の名詞に対して性別を付けるのはやめろー!なんて動きもあるんだとか。
太陽は男性名詞で月は女性名詞、なんだかロマンチックじゃんと思うのですが、女は男に照らされて初めて輝くっていうの!?という勢力がいるらしい。
太陽と月の例だけでなく、女性5人と男性1人の6人組チームがあったとすると、そのチームは丸っと男性扱いの名詞になるらしく、女性を蔑ろにするなー!と。
さすがにセンシティブすぎるぜヒューマン。
とはいえ言葉の影響力は計り知れませんからね。
道徳の授業では男女平等を教えるのに、それを教えるために使われる言語が男性優位と捉えられるような構造をしているとシンプルに子どもたちは「なんで?」となるのかもしれません。
「男らしさ」と「女らしさ」を取っ払って「自分らしさ」を追求する世の中。
私は別になんだっていいけどやりすぎは危ないよ、押し付けは良くないよ、とぼんやり他人事で世界を眺めております。
男女間のありとあらゆる差異をなくしたいのであればもはや人間が雌雄同体になるしかないと思いません?※雌雄同体(しゆうどうたい)とはオスとメスどちらの生殖器も持ち合わせた生き物のことでカクレクマノミなんかがそうです。
日本語も段々とジェンダーニュートラルの影響を受けていますよね。「女々しい」は言っちゃいけないと聞いたので私は細心の注意を払って「ナヨナヨすんな」と言うことにします。
え?そもそも現代では人に「ナヨナヨすんな」って言っちゃダメなの???じゃあなんて言うの???
あ、よく考え込む優しい人なんだねって言わないとダメなの???意味合い変わっとるやないか。
でも私このような言語を話す人類、知ってる。
褒めているのか貶しているのか、怒っているのかなんなのかわからない高度な言語を操る人々。
京都人…!
京都人の婉曲表現は芸術です。
「いい腕時計してはりますね〜」
(意味:何時やとおもてんねんはよ帰れ)
「賑やかでよろしな〜」
(意味:うるさい)
「お子さんピアノ上手にならはったね」
(意味:うるさい)
「えらい丁寧に仕事しはるなぁ」
(意味:仕事遅いねんはよせんかい)
京都出身の友達いわく京都人(特に京都市中心地出身の人)同士だと
ちゃんと言葉に含まれた意味を察してハッとするらしいから本当に文化ってすごいと思う。
大阪人は腕時計褒められたらどこでいくらで買ったかに加えて店員さんとのやりとりまで話し始めるから京都人は頑張って逃げて欲しい。
ちなみに私が1番好きな京言葉は
「月が綺麗ですね」
(意味:あなたはブスですね)です。
実際に使われているとは到底思えませんが、ネタだとしてもあまりに切れ味が鋭くて大好き。
性差をなくし、否定せず、優しく伝えることが求められる現代。
これからこの世界の覇権を握る言語は京ことばなのかもしれない。